火星の人

火星の人 (ハヤカワ文庫SF)

火星の人 (ハヤカワ文庫SF)

遠くない未来。NASAによる有人火星探査プロジェクト「アレス計画」。3度目の火星探査ミッション「アレス3」は火星に到着して早々に想定外の嵐に遭遇する。屋外活動をしていた1人の飛行士が嵐に巻き込まれ消息を断ってしまった。ミッションはそのまま中止、残りのクルー達は地球に引き返す。しかし、彼は生きていた。火星版ロビンソン・クルーソーの始まりである。

とはいえ、ここは火星。イカダを作って火星から地球には到底辿り着けない。有人火星探査プロジェクトの次回探査機「アレス4」の到着まで生き延びない限り脱出の方法がない。

面白かった。ロビンソン・クルーソーというわけなので、ラストはお察しの通りだ。だが、そこに至るまでのプロセスは読み応えがある。序盤はいかに火星で生き延びるか、酸素、水、食料、通信機器をいかに調達するか、火星に残された物資から生存のために文字通り孤軍奮闘する。科学的見地に基づく推測と分析に基づき、1つ1つ問題解決していくプロセスが実に手に汗握る。
主人公マーク・ワトニーの作業ログとして、物語が進んでいくので、彼による一人称のみで語られる。一人称ではあるが、宇宙飛行士として後世のため(将来の火星考古学者のため)に残す活動記録であるため、一人称らしい心理描写などは乏しく、客観的事実の描写に終始する。一方で火星に1人取り残された人間らしからぬユーモア溢れる文章が、取り残された火星でのサバイバルライフを楽しませてくれる。文体がカラ元気なだけに伝わる深刻さというものもある。
地球で彼の生存が発覚してからは地球と火星の物語が平行して綴られ、地球は3人称の文体で進む。通信機器を復旧させ、地球との通信により孤独から脱し、火星脱出計画は進捗するも、それでも幾多のトラブルが舞い込む。トラブルの発生因子も緻密。火星という特殊な外的要因から起きる様々な事象、それらの問題を推測・分析を重ね、解決していく、繰り返しだ。結末が見えているが故に、これ以上苦難を与えてくれるな、と懇願しながら読み進めた。

映画化もされ、日本では2016年公開予定。



映画『オデッセイ』オフィシャルサイト 2016.2